魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が？ ～傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた～

３．黒き誘い -mastermind-

　翌朝、夜が明けきる前に発つスレイバート様の姿を見送ると、私たちは私たちで動き始めた。

　国境の前線に人員を送るということは、領内の守りが手薄になるということ。ボースウィン領の脅威はベルージ王国軍だけではない。瘴気の発生や魔物たちの出現に目を光らせようと、私はテレサや城に留まった巡回兵たちと一緒に、ボースウィン領内の各都市を見回っていった。

　サンクリィの村ではあの少年たちと再会し、彼が譲ってくれたペンダントを大事にしていることや、ルシドが今は遠い国に旅立ってしまったことを伝えた。すると少年は、自分も将来彼のように家族を守れる強い人間になりたいと息巻いて、村のまとめ役を務める母親をずいぶんと困らせてしまった。けれど、子どものそんな頼もしい成長には胸を温められる思いだ……。

　それからもいくつかの街を日を跨ぎ移動したが、幸いにして各都市でも目立った被害はないようで、今のところ状況も安定している。

　しかし、急な戦で最前線に補給物資を送り出す商店や運送業者はばたついており、領民たちの中でも不安そうな顔が多く見られたのもまた事実。