明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「こら」

 ソファに座り直し脚を組んでいた桐吾は苛立ちを押し殺した。

「ひい爺さんのくせに何を言う。まだ子どもみたいなフリをするな詐欺師め」
「人聞きの悪い言い方をするでない」

 白玉の口調が元に戻る。床にあぐらをかきニヤリとするさまは確かに子どもっぽくなかった。

「あの女の邪気は我がいただいた。また明日より溜め込むであろうが、ひとまず澪への害意はない。安心せい」
「……え、白玉それって」
「おまえ……つまり浄化したのか?」
「その通り」

 目をみはる澪。眉根を寄せる桐吾。白玉はドヤ顔だ。
 邪気を食べれば、元の持ち主の邪は祓われる。言われてみれば理にかなっていた。しかし澪は不安げに白玉の頬にふれた。

「白玉がどんどん悪い子になっちゃうのは嫌……」
「案ずるでない。我は邪気を神気に変えておる――一時的に悪しき心が高まろうとも、人の姿を取り続けるだけで力を使うゆえ」

 消費するから問題ない。その説明に澪はニッコリした。よくわからないが本人が大丈夫というならそうなのだろう。

「ねえ、白玉はどうしてそんなことができるの? 私も祟り神のはずなのに人の邪気を吸うなんて無理よ」
「……我は怒りによって祟り猫となった。澪とは違う」
「違う?」

 不思議そうな澪に向かって白玉は伸び上がる。そして頬にチュ、とキスをした。桐吾の顔色が変わった。

「澪は――愛と哀しみゆえ、よな」

 そう言うと白玉はポムン、と猫になってしまった。

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