明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
神気の源
愛と哀しみ。
そんなことを言い捨てると、白玉は知らん顔で寝に行ってしまった。猫は寝る子、なのだし。
「ちょ、白玉ったら……」
放置された澪はおろおろと桐吾をうかがった。桐吾のまとう空気が氷点下になっていたからだ。
(ど、どうして? なんだかすごく怒ってる)
桐吾の意識は、白玉から澪へのキスだけに向いていた。頬とはいえ澪に何を、と蒼白い嫉妬の炎が心中に渦巻く。
しかし当の澪からすると、そんなの猫の姿でペロペロされたのと同等でしかない。桐吾が何を怒っているのか理解不能でうろたえた。キスではなく、白玉に言われたことが怒らせたかと考えをめぐらせる。
(私の愛? 哀しみ? それって何かいけないことだったかしら……)
誤解を元に悩む。
白玉が祟ったのは〈怒り〉からで――澪は〈愛〉? どういうことだろう。
「澪」
「は、はいっ」
ボソリと呼ばれ、澪は飛び上がった。桐吾が澪を見つめる目が苦しげだ。怒っているのに泣きそうにも見える。
「桐吾さん――?」
「来い」
ビクビクしながらソファで隣に座った澪の頬に桐吾は手をふれた。白玉が口づけた場所だ。