明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
業務提携
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久世建設本社正門を、黒塗りの車が入ってくる。それを迎えるため社屋前にはズラリと役員以下略の面々が並んでいた。
停まった車の後部ドアがうやうやしく開けられる。一同はザッと頭を下げた。
「――ご苦労」
しわがれた声で出迎えの幹部たちをねぎらったのは、久世忠親・八十二歳。久世建設の会長だ。つまり桐吾の祖父であり養父でもある人物。
(……爺さまも虚仮おどしの儀式などやめればいいものを)
列の中でともに礼をとりながら桐吾は舌打ちをこらえていた。こんな時代遅れなことをしているからSAKURAホールディングスに狙われるのだ、と明確な関連もないことを思ってしまう。
少し向こうに伯父の正親と従兄の尚親が並んでいた。彼らはいけ好かないが、守旧的な社風を改革したがっている一点だけは賛同する。
「桐吾」
足をとめた忠親に名を呼ばれた。ということは祖父としての言葉があるのか。会長の立場で仕事の話をする時には、地域開発事業部第二部長と役職名で言われるはずだ。
「はい」
「会議の後、わしのところに来い」
「わかりました」
すぐに行ってしまう祖父の足取りは強い。かくしゃくとした、まだまだ引退などしないと言わんばかりの背中だった。
年齢を考えると楽隠居すればいいのだが――息子の正親に不満があってそうできない、というのは公然の秘密だ。正親を社長につけず常務にとどめているのがその証左。今は一族外からつなぎの社長を迎えている。
個人的に声を掛けられた桐吾のことを、伯父がギロリとにらんだ。
(くだらない)
桐吾は一顧だにせず、伯父を黙殺した。