明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
  ✿

「桐吾よ、おまえ結婚するのか」

 祖父に問われたのは想定の範囲内のことだった。
 見合い騒動は耳に入っているだろうし、断った理由もしかり。澪の存在が知れただけのことだ。桐吾は堂々と答えた。

「籍はまだですが、一緒に暮らしています」
「どこの家の娘だ。なんぞ考えがあってか」
「いえ」

 答弁をシミュレーション済の桐吾はスラスラと続けた。

「両親はすでに亡く、資産もありません。ただ心の穏やかな人で、そばに置いてホッとするので」
「――おまえらしくもない」
「そうでしょうか。近づける前に人物調査はしましたよ」
「それはらしいな」

 祖父は鼻で嗤う。久世に損害を与えるような女だと困るというのは最低限の条件だ。桐吾もそこはないがしろにしていないと示す必要があった。
 だが行ったのは、人物調査というより歴史や伝承の学習に近い内容なのは黙っておく。

「贅沢には慣れていませんし、趣味といえば猫を可愛がるぐらいですかね。出しゃばるのが苦手で控えめな人です」
「ふむ……まあいい。おまえのことだ、桜山守を断る口実かと思うたぞ」

 しかめ面であごをなでた祖父は鋭いことを言う。最初そのつもりだった桐吾はうっすら笑った。

「その役にも立ってくれました。SAKURAホールディングスに近づきすぎるのはどうかと思います」
< 111 / 177 >

この作品をシェア

pagetop