明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「そうだろう、そうだろう。桜山守との縁組など、わしは許さん」

 忠親は背を伸ばし椅子に座り直した。偏屈な養父ではなく、久世建設会長としての威厳がにじむ。桐吾も姿勢を正した。

「SAKURA観光開発からの正式打診があった。峰ヶ根町・駒木野町の共同開発計画における合弁事業提案だ」
「……来ましたか。予告は受けていましたが」

 どうやら向日葵は本気だったらしい。自信に満ちたゴージャス美人の高笑いが聞こえる気がした。

地開二部(ちかいにぶ)長、おまえが担当しろ」
「は……」

 桐吾はやや迷惑げにしてしまった。あの向日葵の思惑通りになるのは、なんとなく嫌だ。だが忠親は口をへの字にする。

「おまえならSAKURAホールディングスに丸め込まれることはすまい――正親の奴が信用ならんからのう。尚親(その息子)も同じじゃ」

 息子と内孫のことを忠親は悪しざまに言った。SAKURAホールディングスと組むのはいいが、傘下入りはならん、と。
 そう力説する祖父の言葉を拝聴しながら桐吾は考えていた。

(澪を連れてドライブするか。あの祠と池を訪ね、そして……冬悟の墓参りもさせてやらなければ)

 仕事の現地調査と称し出掛けよう。同行する澪は当地の歴史を肌で知る、百五十年前の地元民だ。参考になる話を聞かせてもらいたかった。

 だがあそこへ行くのは桐吾にとって苦行になるかもしれない。何故なら、澪の愛と哀しみに向き合うことになるだろうから。
 それは桐吾が関わることのできない領域。なのにもっとも手に入れたい澪の芯の部分だった。

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