明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします

　森沢澪。その正体は依然として謎だ。華蓮にとっては。
　現れた経緯から考えるとそんなに離れた地域にいたとは思えない。だがどう検索しても引っかからないし、今は各学校組織なども個人情報に厳しくて調べきれなかった。出身自治体が判明し小躍りしたくなる。

（い、いえ。私は久世部長の味方……ではあるんです！）

　誰にともなく言い訳した。だがある程度の成果が出ないと常務に叱責される。それに華蓮個人としても澪に興味はあるのだ。恋敵として。

（もう絶望的なのはわかってるけど……）

　力なく微笑んだ華蓮に桐吾は気づかない。桜山守からのファイルを読み込みながら企画をくつがえす作戦を練っていた。

「次の週末にでも行ってみよう」
「あ、平日でもかまいません。今のところ会議などが入っていない日に出張を設定しましょうか」
「そうか。じゃあ頼む」

　能力をアピールするぐらいしか華蓮にできることはない。秘書的な立場が、桐吾に近しくあるためには有効だ。

（あ、でも）

　平日だと自分が同行するのは難しくなる。気づいたが、時すでに遅しだ。華蓮は泣きたくなった。