明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
ふるさとの記憶
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「――ここが峰ヶ根町の中心部だ」
車から降りた澪は、桐吾の言葉にあたりを見回した。
「ここ、が?」
まったく見覚えがなくてぼう然となった。駐車場に立ち尽くす。
晩秋のキリリとした風が澪の髪をなぶった。晴れ渡りドライブ日和だが、少し山に近づいたからか空気が冷たい。桐吾は澪の肩にショールを掛けた。
「――ありがとう」
「いや。驚いただろう。すっかり変わってると思う」
すぐ近くに四角い建物があり、それが町役場だそう。もちろん澪が知らない建物だ。そしてアスファルトにおおわれた道路。町角にはコンビニエンスストア。
――これが今の峰ヶ根。
「ふみぃ」
「白玉……」
ハーネスを着けた白玉が澪の脚にスリスリとしてくれた。なぐさめているのだろう。
「ここ、村のどのあたりかな」
「にゃおぅ」
「白玉もわからない? この道が昔の街道なら……村の中心はもっと北側に寄ってるのかも」
「澪姫の祠と池は北の外れにある」
桐吾が教えた。最初に澪と出会った場所だ。あの日はそちらまで車で近づいたのだった。
「車で行くか?」
「あ――ううん、歩いてみたい」
迷いながら申し出たのには二つの理由があった。村だった場所をきちんと見て確かめたいから。そして――自分が死んだ池にたどり着くまでにちょっとだけ時間がほしいからだ。