明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします

本家へ

 ✿ ✿


「あの、私うまくできるでしょうか……」
「大丈夫、俺がついてる」

 助手席から降り立つ澪は、久しぶりの和装だった。
 この世にあらわれた時の着物はきちんと手入れして置いてあったが、今日はそれに新しい帯と小物を合わせて美容院で着付けてもらっている。髪も今風の軽やかなまとめ髪にし、華やかに飾った。

 桐吾の運転でやってきたのは久世の本家だ。街中なのに純日本家屋のゆったりした家に車をつけ、訪ねるのは祖父・忠親。
 本家に澪のことを紹介し、ついでに――伯父の背任について内密に調査を願い出るつもりだった。

「爺さまに頭を下げたら、後はニコニコしていればいい」
「ええ……でも、白玉がいないんだもの」

 澪が不安げなのはそのせいもある。
 桐吾の家族に挨拶するにあたり飼い猫を連れてくるのは非常識だろう。やむなく白玉は留守番にしたのだが、なんとなく落ち着かなかった。たぶん祟り神の先輩として頼りにしているのだ。
 桐吾としてはその点がやや不満。自分がいるのに、と苦々しく思った。

「澪」

 ス、と手を取る。両手でやさしく包んだ。

「俺がいると言っただろう。何も問題ない」

 ピシリとスーツを着こなす桐吾に微笑まれ、澪は耳まで赤くなってしまった。

(こんな甘い顔をしてくれる桐吾さんなんて、あまりないわ)

 最近持たせてもらったばかりのスマホで写真を撮りたくなった。そしたら桐吾の留守中、たまにながめてニヨニヨしたい。でも今ごそごそとカメラを向けたら冷たい目でにらまれそうだ。

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