明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「消える――というのは、姿を消して別のところにあらわれるのではなく、だな」
「そうね。今みたいのじゃなくて、私がいなくなっちゃうってこと」
澪はちょっと寂しげに肩をすくめた。
(できれば、そんなことにはなりたくないな。今とっても幸せだもの)
桐吾のそばにいたいから、ちゃんと気をつけるつもりはある。
「白玉がちょこちょこ邪気を食べているでしょ? そういうふうに、私も神気をおぎなえばいいんですって」
「おぎなう――」
「え、ええ。つまりその」
ごにょごにょ。澪は言葉に詰まって頬を赤らめた。
愛し愛されたい、だなんて口にできない。
「ささ、お風呂わいてますよ。さっぱりしてきて下さいな」
「あ、ああ」
桐吾の方も澪のためらいは感じ取った。そそくさと風呂に向かう。澪への「愛」ならいくらでも注いでやりたいと思ったが、言葉にはできなかった。
そんな二人のやり取りを、白玉は猫のまま床で聞いている。
(ほんっとーに! じれったい! 馬鹿者どもめがッ!!)
最近の白玉は真剣に悩み始めていたのだ。澪と桐吾は想い合っていると感じる。なのに遠慮ばかりしていてどうにも決め手に欠けた。
それはもしや、自分の存在が二人の進展の邪魔になっているからでは。
家にいても完全な二人きりにはなれない。
白玉が明確な知性を持った祟り猫だと知っている状態で、桐吾としては猫の耳をはばかり澪を押し倒しにくいのだろう。同じオスとして桐吾に同情したくなった。それに白玉とて澪の嬌声を盗み聞きしたいわけでもない。
(我は、家出するべきであろうか……)
遠い目をして考える白猫。その物思いに気づかない澪は、やわらかな笑顔で白玉に水と猫缶を用意していた。