明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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 だが桐吾には通常の業務も待っていた。SAKURA宛ての対案をまとめるためにチームを立ち上げ資料の整理・検討に着手しているし、部内の他の案件にも目を配らなければならない。ひっきりなしに来るメールをさばきながら、桐吾はデスクでつぶやいた。

「時間が足りないな……」

 それでも家には早く帰りたい。澪が待っているからだ。

「部長」

 さりげなく近づいてきたのは華蓮だった。桐吾の愚痴が聞こえたのかもしれない。

「お手伝いできることは?」
「ああ……いや、すまん。君にはもういろいろ投げているだろう」
「いいえ、部長に比べればまだ。抱え込まないで下さい」

 そう言われても会長の直命で常務を探っているとは漏らせない。だが気づいた。

「高橋は地開(ちかい)に来る前、経営戦略にいたんだったか」

 そこには従兄の尚親がいる。その実父にあたる伯父・正親も深く関わっている部署だ。何かしら情報を持っていないだろうか。

「……ええと、はあ」

 しかし華蓮の反応は歯切れ悪かった。桐吾の勘が何かを告げる。小声で尋ねた。

「――違ったらすまん。あっちでトラブルでもあったか?」

 転属の際にそんなことは通達されなかった。気のせいであればと桐吾は確認したのだが。
 しかし華蓮が言葉に詰まる。図星だった。チラ、と周りを気にされて桐吾はいったん引き下がった。

「そういえば総務に用事があるんだった。悪いが後で」
「あ、はいっ」

 離席する桐吾は目配せを残す。総務のフロアまで追ってこいというのだった。合図を正確に読み取った華蓮はさりげなく自分も部を出た。

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