明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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「――で、何があった」

 フリーに使えるスペースに陣取り、桐吾は再度尋ねた。
 華蓮が異動してきたのは三年ほど前だ。最初の頃は硬い態度の奴だと感じていたが、それは前部署であったなんらかのせいだったのか。気づいてやれなかったことを上司として悔やむ。

「言いにくいなら無理強いはしないが」
「……ありがとうございます」

 華蓮は迷った。桐吾はどんな内容を想定しているのだろう。華蓮が裏切っていたなどとは、おそらく思っていまい。

 ――これまで桐吾の動向を常務に流していたと告白すれば、どれだけ軽蔑されるか。
 そんな人事をゴリ押した常務の正親に非があるのは明らかだ。でもそもそも原因となるミスをしたのは華蓮。そして解雇をまぬがれるために正親の命令を受け入れたのも華蓮自身の決断だった。

 無言の華蓮。桐吾も別に詰問したいわけではない。部下が滞りなく就業できるようカウンセリングしようと声掛けしただけだ。

「――守秘義務のあることか? ならばいい。今後の業務に差し支えないようにしてくれれば」
「あ――」

 話を終わらせるかの言い方に華蓮は思わず反応し、桐吾を引き留めてしまった。

「あ、あの」
「うん」
「私――」

 言い淀む華蓮の唇がふるえた。桐吾は待っている。

(――楽になれるかもしれない。部長は一方的に私を叱責するような人じゃない。むしろそういう人ならば、もう思い切ればいいんだ――勇気を出してみよう)

「――申し訳ありませんでした」

 やや青ざめながら、華蓮は口を開いた。
 涙だけは必死でこらえる。泣いてごまかし甘えるような女だと思われたくなかったから。


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