明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 だが澪のいたわる視線で桐吾は少し楽になる気がした。

(好きになれない、か……嫌いとか憎んでいるとか言わないところが澪らしい)

 澪の心のもっとも深いところにあるのは、愛。
 そういう人だから手放したくないのだ。澪の人となりは、こうした言葉の端々からよくわかる。

「爺さまにも伝わったのかもな……」
「伯父さまとお爺さまに何かあったの?」

 思わず漏らした言葉に澪は首をかしげた。その頭を桐吾はポンポンとする。今は澪も子ども扱いだと抗議しなかった。それより桐吾が心配だし、本当は桐吾にふれられるのが嫌じゃない。桐吾に頼られるぐらい大人になりたくて拗ねていただけだ。

「伯父が仕事で不正をしていると情報があって、調べるよう言われている」
「もしかして本家に行った時……?」
「そうだ」

 澪が席を外していた間のこと。詳しい話を桐吾は言わないし、澪は聞かなかった。双方が考えたから。澪に心配かけたくないし、踏み込むのは桐吾に失礼だと。

「証拠を探るのに澪の力が使えたらと……気にするな、俺が自力でやるべきだな」
「ちょーっと待ったぁ!」

 明るい少年の声が割り込んだ。白玉だ。ポンと気軽に人の形になった祟り猫を見て桐吾が天井を仰ぐ。

「……なんだ」
「ちっちっち。澪をみくびってもらっちゃ困るよ」
「おまえ今日はしゃべり方おかしいな?」

 水干姿だとむしろこれは違和感がある。すると澪が照れ笑いした。

「昼間二人で映画を観てたの」

 探偵物だった。現代の人間模様を勉強するために、最近はドラマや映画をたくさん鑑賞するようにしている。

「……それで影響されたのか」
「ふん、別にいいであろ」

 白玉の口調が戻った。いちおう恥ずかしかったのかもしれない。

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