明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「そんなわけで今の我は名探偵白玉じゃ。証拠探しと聞いちゃあ黙ってはおれぬぞ!」

 ふん、とわざとらしく鼻の下をこすり、白玉はニヤリとした。桐吾は面倒くさいと思ったが、「みくびるな」は気になる。澪の力をどうするというのだろう。白玉は平然と言った。

「澪は想いをかけた()に飛ぶこともできる」
「何?」

 白玉は説明した。澪が思い描くのは場所だけではない。気になる物のことを考えれば、その置いてある所へだって行けるはずだと。

「思い出せ澪。街道の荷車の上にあらわれたことがあったはずじゃ」
「あ……やったかも」

 封じられる前の幽霊時代、気になっていた荷の行方を見に行ってしまったことがある。その荷はもう村から離れた道を進んでいて、気づいた人夫たちが悲鳴をあげて腰を抜かす騒動になった。

「てことは、何か大事な物を配置しておけば澪は知らない場所に行けるのか」
「おそらくは。桐吾は澪に何をさせたい?」

 訊かれて桐吾は思いついたことを白状した。
 伯父・正親のデスクにはきっとSAKURAホールディングスとのやりとりが保管されている。その中に背任の証拠となるものがあるはずなのだ。
 正親は時代錯誤にも専用の役員室を持っていた。桐吾が忍び込めればいいが、もちろん無人のタイミングでは施錠されてしまう。だが澪ならば証拠を確保できるのでは――。

「――と思ったのだが。よく考えれば澪に危険なまねをさせられない。やめておこう」
「え、でも私がお役に立てるならやってみたいです。その伯父さまのこと祟れないかわりに頑張りますよ」

 祟れない祟り神・澪は申し出た。桐吾のためならちょっと危ないぐらい、と思ったのだが。

「いや。無理だと思う。澪ひとりでそんな所にあらわれたって、何が証拠なのか判断つかないからな」
「あ――」

 もっともな指摘に澪は肩を落とした。中から澪が鍵を開け、桐吾を招き入れる手もなくはない。だがその間に伯父やその秘書が戻ってくる可能性を考えるとやりづらいし、伯父が退勤した後の夜遅くに実行するのは無関係なフロアにいる桐吾が目立ちすぎるだろう。

「別の手を考えるさ。悪かった」
「――我も行こう」

 重々しく白玉が口を開いた。

「さすればなんとかなるのではないか?」
「え――白玉? どうするの?」
「ふふん」

 きょとんとする澪に向かって、白玉はふてぶてしい笑みを見せた。


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