明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします

俺の妻になれ

 ✿ ✿


「や――――ぁぁん!」
「悲鳴を上げるな。安全運転してる」

 ものすごい速さで動く箱の中、澪は体を硬くしていた。つまり桐吾の車に乗せられたのだ。

(クラクラする。死にそう)

 一度死んだ身だが、もう一度死ねるかもしれない。体を固定してくれているシートベルトという物に澪はしがみついていた。本当は桐吾に怒りたいのに余裕がない。
 
(桐吾さん、いきなり覆いかぶさってくるし!)

 座ってすぐ指示された「シートベルトを締めろ」の意味なんてわからなかった。
 キョロキョロしていたら舌打ちされた。仏頂面でグイと乗り出され、目の前に腕を回され、頭の横から細い帯みたいな物を引っぱり出された。問答無用だった。後ろの席から白玉が抗議の声を上げたがそれも無視された。

(やっぱり冬悟さんとは違う人だわ)

 名前の音は同じでも、中身はぜんぜん違う。冬悟はやさしくて――澪を怖がらせたりしなかった。

「――車なんか乗ったことはないだろうが、これでも法定速度で走ってる。これ以上ノロノロしたらむしろ危ないんだ。遠くの景色でも見てろ」

 不機嫌そうな声で言われ、澪は渋々うなずく。
 でも遠くが見えるかといえば無理だ。出発した林はすぐに途切れ、不思議な四角い建物が建ち並ぶばかりになっている。道は黒っぽく、白い線が描かれていて奇妙だった。

「ねえ、この車って何が動かしてるの? 馬でもなさそうだし」

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