明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 白猫は倒れたままの猫塚を前足でちょんちょんとする。その上に座ってみる――何も起こらない。白玉は普通に猫の姿のまま「ふみゃう」とひと声鳴いてみせた。
 澪も白玉にならって祠に近づいた。でも崩れ落ちた屋根をどうすればいいのかすらわからない。こてん、と首をかしげて途方に暮れた。
 ひゅううぅ……木立を抜ける秋の風が涼しい。

「――もういい、わかった」

 桐吾は困惑と諦めを絞り出した。頬がヒク、とひきつるのを我慢する。

(こんな一人と一匹を野放しにできるか!)

「とりあえず、澪も白玉も俺が面倒をみる」
「ええと……ご飯を食べさせてくれるの?」
「食事もそうだし、ずっとここで立ってるわけにはいかないだろう」

 ここは郊外の林の中。近くに池があり軽い散策コースがあるが、人家は少ない。
 そんな場所に昔風のいでたちをした女と猫なんて組み合わせ、置いて帰るのはまずかろう。本人たちはもう死なないにしても心霊スポットと化す未来が見えた。

「俺の家に部屋が余ってる。今日はそこに来い」
「でもご家族がびっくりするんじゃ。なんて言い訳を?」
「どうせ一人だ、気にするな」
「え、奥さまとか」
「そんなものいない――」

 桐吾はふと黙って、澪の顔をじっくり見つめた。
 おっとりした瞳。気立てのよさがにじむ顔立ち。造作は美人の部類だし立ち姿はすんなりしている。それに、やはり感じる妙な懐古。

(見た目は俺の好みだし――使える)

 最近悩まされていた話を断るのに最適かもしれない。桐吾は強くうなずいた。

「俺の彼女ってことにしよう」
「――かのじょ?」
「いや、もういっそ内々の婚約者でもいいか。マンションにいさせるなら同棲中と言えるしな」
「待って待って、どういうこと?」

(知らない言葉だらけ!?)

 令和を初体験中の澪にはまったく話が通じていない。なのに考え込む桐吾からは完全に無視されて、ちょっと腹が立った。


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