明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
冬悟と桐吾
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「――やっと連れてこられた。遅くなって悪い」
車を停めた桐吾が神妙に謝罪する。澪は首を横に振ってシートベルトを外した。
「そんなことない。桐吾さん、とても忙しかったもの。ね、白玉?」
「にゃおみゅー」
まあ仕方なかろう。そう鳴いた白玉はドアを突っついた。さっさと外に出せというのだ。
二人と一匹で降り立ったのは、駒木野町にある水無月家の菩提寺。江戸時代から場所も変わらず残っている古刹だった。
キンと冷たい二月の空に寺の屋根が沈黙していた。
門の中が駐車場になっているのは澪の記憶とは違うが、本堂の横から回り込む墓地への道の感じにはなんとなく覚えがある。冬悟の埋葬の時に一度来ただけだが。
「桐吾さんのご両親もここに葬られているなんて知らなかった……」
「そうだろうな。俺が言ってなかったんだから当然だ」
桐吾は冬悟の親族。だから当然この寺にも馴染みがある。両親はもちろん、父方の祖父母も眠る場所だった。今日も慣れたようすで途中の花屋で仏花を買った。
「水無月家の名が書かれてる墓はいくつかあるんだ。俺の親が入ってる所に〈冬悟〉の名前はなかったと思う」
「前に来た時、本当は寄りたかったわよね……ごめんなさい。私あの時はまだ、気持ちがぐちゃぐちゃで」
「うん? 暗くて怖かったんじゃなかったのか?」
「――もう!」
ぶつ真似をしたら、桐吾はヒョイとよけた。そして小さく笑う。
以前に峰ヶ根と駒木野を訪ねた日。澪はまだ、よみがえった自分をもてあましていた。
令和の時代に驚いてばかりで。
桐吾に好意は持っていても名目上〈契約夫婦〉で。
根なし草のようで。
幸せだった昔を考えたら泣いてしまい、桐吾を傷つける。そう思ったのだった。
だけど今は――。
「桐吾さん……」
「なんだ?」
「……ふふ。なんでもない」
するり。
澪は桐吾の手に、手をすべり込ませた。
大好き。そう伝わればいいと願う。
「……」
澪の想いが伝わったのかどうか。桐吾は手を握り返してくれた。何も言わずに。