明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 この駒木野と峰ヶ根。合同リゾート開発計画は、出されたプランAへの対案Bを作成する方針で動いている。だが少々の時間はもらえそうだった。
 久世建設と同じく、SAKURAホールディングス内の実権争いが動き出してしまったのだ。「プランAを立てた連中の後ろ盾が消えましたのよ」と向日葵が高笑いしていた。そんなだから悪役令嬢と言われるのだと自覚してほしい。

 桐吾の指揮で作った久世側のチームには、華蓮も加入し尽力している。江戸期の街道と宿場という消えかけた歴史にスポットをあてるのはどうかと提案され桐吾もうなった。和のテイストを出してインバウンド需要に働きかける路線だ。エリア丸ごとの開発だからこその発想だった。
 町全体としての未来を見据える。それは桐吾も望むところだ。
 二つの町は桐吾と澪のふるさとだから。



「――白玉はこのお寺さんに来たことないのよね」
「にゃん」

 墓地の入り口で桶に水を汲みながら澪は足もとに話しかけた。いつもならさっさと歩き出す白玉が大人しく待っているのは、目的の墓を知らないから。

「そうなのか?」
「だって隣村よ? 昔は車なんてないし、わざわざ猫を連れて出かけたりしなかったの」

 ハーネスなど着けず、飼い猫でも自由にそこらを歩き回っていた時代だ。澪だって嫁ぐはずの村だったから駒木野のことは知っているが、生まれた土地を一生出ない人間も珍しくなかった。

「だから私、いろいろな所に行けてとても楽しい。桐吾さんのおかげよ」
「……今は誰だって、どこにでも行けるんだ」
「すごい時代よね」

 よいしょ、と桶を持とうとするのを桐吾は奪い取った。

「澪は墓を探してくれ」

 うなずいて白玉と歩いていく澪の背中。見つめる桐吾の目は限りなくやさしくなる。どうしてこんなに愛おしいのか。

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