明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします

「澪が俺の許婚になるって話だ」
「へ!?」

 澪がぎゅん、と振り返っても桐吾は前を向いたままだった。運転中だから。

「さっき言ったろう。婚約者として同棲すればいいと」
「こんやくしゃ……どうせい……」
「許婚。一緒に住む。わかるか?」

 桐吾が言い直してくれてやっと理解する。耳なじみのない言葉を(大根役者みたい)と聞き流していた。許婚のことだったのか。

「でもそれって、家同士の話よ。私の親はもう」
「今は本人の合意があればいいんだ」
「い、許婚って一緒に暮らしたりはしないものだし!」
「だから今は違うと……じゃあいっそ妻なら納得するか? 他の女と結婚する予定もないから俺はかまわない。澪には戸籍がないから事実婚になるが」

 桐吾はフン、と嗤う。

「気に入らない見合いがあって、断る口実にしたい。協力しろ」
「お見合い……」

 澪の心が立ちどまった。桐吾は意に染まない相手を妻に迎えろと強要されているのか。それは澪も通ってきた道、できるなら助けてあげたい。
 空気を変えた澪の横顔をチラリとし、桐吾は畳みかけた。

「――これは契約だ」
「けいやく」
(ちぎ)り、と言った方がわかりやすいか? 俺は澪を内縁の〈妻〉ということにして守る。澪は俺の隣にいて見合いをブチ壊す。できれば久世家を祟る。それでどうだ」

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