明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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「あそこだ」
示された桐吾のマンションを車内から見上げ、澪は黙りこくった。
(……立派なお寺の塔よりも高いわ)
物件はいわゆるタワマンではないのだが、澪にとっては理解不能な高さの建物だった。
地下の駐車場で車を降り、乗せられた箱は急に体が重くなりふらつく。かと思ったらフワンとして気持ち悪かった。
「荷物置き場にしている部屋を空けるから使ってくれ」
ガチャリ。招き入れられたリビングダイニングは機能的で殺風景だった。ジジジ、と虫が鳴くような音がするのは冷蔵庫のモーター音などだが、澪は知らない。
「きゃっ――!」
案内された先で足がすくんだ。大きく透明な窓の外に夕暮れる街並みが広がっている。
「十二階だからそんなに景色は良くないな。どうせそんなに家にいないんでこだわらなかった」
「じゅうに、かい……」
(え? 五重塔を二つぶんぐらい?)
たぶんそれは正確ではない。
車を降りてからずっと澪に抱かれていた白玉がヒョイと床に降りた。フンフンと部屋の中をかぎ回るのを見て桐吾が舌打ちする。
「しまった……こいつの物も用意しないといけなかったのか」