明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「白玉の? 別に何もいらないわよ」
「トイレとか餌とか必要だろう。澪の服は頼んだんだが……」
「といれ」

 また知らない言葉だ。ここは日本のはずなのに、澪にとっては不思議の国のよう。目をぱちぱちしていると、困った桐吾が髪をかき回した。

「トイレってのは……(かわや)のことだ。ついでに使い方を教える。来い」

 桐吾はそそくさとトイレ・シャワー・シャンプーの使用方法をレクチャーした。微妙に気まずいのは相手が女性だからか。でもこれは切羽詰まる前に伝えておくべきこと。それにずっと日本髪の着物姿でいられても困る。

「俺は猫用品の買い物に行ってくる。その間に風呂に入っておけ。とりあえずの着替えは、大きいが俺の服で」

 メンズのスウェットセットアップとタオルを押しつけ出ていく桐吾を見送り、澪はなんだかぼうっとしてしまった。

(しゃわー。しゃんぷーで髪を洗う。異国の服)

 さらっと教わったことが自分にできるかどうか、ドキドキする。

「にゃん」
「う、うん。がんばるわ――白玉もお風呂、入る?」
「みーう」

 白玉はぷいっと顔をそむけた。入るわけない、と言われたような気がした。

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