明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
  ✿

「――澪?」

 ゆっくり買い物してきた桐吾は警戒しながら玄関を開けた。女性のシャワーや身支度に居合わせるのは気が引ける。

「あ、桐吾さん。おかえりなさい」

 明るい声がした。ホッとしてリビングをのぞくと、髪を解きスウェットを着た澪がいる。ソファに座り濡れた髪をタオルで押さえているところだった。

「異人さんの服……これで着方は合ってますか? 袖も裾も長くて、折ってみたの」

 ヒョンと立ってみせる澪はたぶん、現代では小柄な方だ。桐吾とは二十五センチほど身長差がある。ブカブカなスウェット姿はなかなか男をそそるものがあるが――。

(胸を張らないでくれ)

 下着を着けていないので目のやり場に困る。桐吾は天井を見上げてしまった。

「……合ってる」
「よかった! ふふ、あのシャワーって、すごくくすぐったいんですねえ。こんど白玉にもやってあげる!」
「ふしゃッ」

 座り直し猫をからかう澪から目をそらしたまま、桐吾は荷物を取り出した。猫トイレ、猫砂、カリカリ、缶詰、餌皿。

「とりあえず白玉のための物だ。腹が減ってたんだよな、食事にしよう」
「……これが食べ物?」

 澪はプラスチックの袋や缶の手触りをたしかめた。興味津々の瞳。

「食べるのは中身だぞ」

 キッチンで人間用のレトルト食品を取り出しながら桐吾は答えた。
 いちいち澪の反応がおもしろいのだが声は素っ気ない。もうずっとそういう風に生きてきたので変えようがなかった。
 すると、ピンポーン。インターホンが鳴る。初めての音に澪が飛び上がった。

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