明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします

知らないことばかり


 ✿ ✿


 次の日、桐吾はリモートで仕事をしていた。
 澪に家や電化製品の機能を教えはしたが、一日過ごしてみないことには何があるかわからない。注文して届いていない品物もあるし、放っておけないのだった。

 マンションの仕事部屋はリビングの続き間だ。軽く仕切ってあるのは桐吾自身がオンオフを切り替えるためだったが、それで正解だったと思う。ソファで本をながめる澪がいる今日は、丸見えだと互いに落ち着かないだろう。
 ちなみに澪が読んでいるのは猫の飼育本だ。猫グッズと一緒に桐吾が買ってきた。活字と写真に澪は目を白黒させている。

 桐吾は次々に届くメールをチェックしていた。テキパキと裁可し、返信。創業者一族のコネで入社し出世しているとはいえ、桐吾が冷静で有能なことは社内でも認められているはず。

(――爺さまのゴリ押しではあるんだがな)

 心の中で自嘲した。
 会長職にある祖父が桐吾の能力を買っているからこそ、今の桐吾がある。

 桐吾の母は会長の娘だった。つまり桐吾は外孫ということになる。成績が良いおかげで祖父には可愛がられていた。祖父はそういう人だ。
 なので中学入学直前に両親が事故死した後、当然のように引き取られた。名字は変わったがお金に困ることはなく、悠々と勉学に励み大学を卒業し、命じられるまま久世建設で働いている。そこに桐吾の意思はなかった。
 
(仕方がない)

 育ててもらった恩がある。常に「久世の役に立て」と言われ続けた桐吾。祖父に逆らう選択肢はなかった。
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