明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 あまり表情を変えない桐吾。でも思ったより怖くない。意外と気をつかってくれた。

冬悟(とうご)さん……)

 桐吾とおもかげが重なるのは、大好きだった許婚だ。水無月(みなづき)冬悟。
 澪が生きていたのは百五十年ほど前だと桐吾は教えてくれた。それから日本にも世界にもいろいろあって、生活はガラリと変わったと。
 でも澪が身を投げた池はまだあるそうだ。〈澪姫〉の祠はその近くだと。ならば冬悟の墓も残っているだろうか。

(――いつかお墓参りに行ってみたい)

「にゃお」

 玄関で立ち尽くしていたら白玉が出てきた。心配してくれたのかもしれない。

「ああ白玉、つまらない? 昔のお屋敷なら外に遊びに行けたのにね」

 街の中を猫が歩くのは危ないとも桐吾は言っていた。車に轢かれるし、迷子になれば捕まって処分されかねないと。

「私もひとりで外はだめだって。今日は一緒にいましょうね」
「みゅ」

 白玉を抱き上げた澪は、買い物に歩いた昨夜を思い出す。
 人々があふれる街にいて、何故かとても寄る辺なかった。だけど取られた手から伝わるあたたかさに胸が締めつけられた。

 ――桐吾だけが、自分と世の中をつなぐ(よすが)だと思えた。

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