明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします

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 帰宅した桐吾はリビングの入り口で足をとめた。

「おかえりなさい桐吾さん」

 満面の笑みで出迎える澪がまぶしい。家で人が待っているという状況が久しぶりすぎて「ただいま」のひと言が口から出なかった。
 ダイニングの隅では白玉が毛づくろいしている。その前には空の餌皿。猫は満足げで、家主があらわれても悠々としたものだ。
 キッチンの使い方は簡単にレクチャーした。主菜と副菜がセットになったレトルト食品を常備しているのだが、澪にもそれで済ませるよう言ってあった。

「食事はちゃんとできたんだな」

 桐吾に確認されて、澪は頬を赤らめた。

「私のお夕飯はまだです……桐吾さんを待とうと思って」
「え?」
「……だって私、妻ですもの」

 もじ、と目をそらした澪は小声だった。
 食事を先に済ますなんて落ち着かない。家族、あるいは夫婦なら共に食べるべきというのが澪の感覚だった。
 でも澪がここにいるのは〈契約〉にすぎない――ということは偽りの妻だ。そんな立場なのに気を回すのはおかしいだろうか。

「妻――か。確かにそう言ったが」
「あの、ごめんなさい。ご迷惑なら」
「もっと遅くなる時もあるから待たなくていい。今日は一緒に食べよう」

 ワークスペースに鞄を置きに行った桐吾のことを白玉がチロリと見た。毛づくろいをやめ近寄っていく。足もとに頭を寄せフンフンと桐吾の匂いを嗅ごうとするのが珍しかった。

「白玉、なあに」
「俺がどうかしたか」
「うみゃう」

 白玉は青と黄色の瞳を光らせた。タン、と桐吾の胸に跳びつく。慌てた桐吾に受けとめてもらうと伸び上がり、ザラついた舌で頬を舐めた。

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