明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
  ✿

 ヨロ。グラリ。
 電車の中で、澪は見事にたたらを踏んでいた。自動車とはまた違う、横揺れと加減速に翻弄される。
 やや混んでいて手すりにはつかまれなかった。小柄な澪には吊り革が遠い。ふらつく澪に軽く舌打ちした桐吾は、グッと背に手を回した。

「……俺につかまれ」
「でも桐吾さんは白玉も連れてて」
「いいから」

 バッグ型のケージに収めた猫は桐吾が肩に提げている。空いている腕に抱き寄せられ、澪はうつむいた。

「転ばれると困る」

 頭の上からささやき声が降ってきた。こくん、とうなずく。

(どうしよう、恥ずかしくて返事もできない。公衆の面前で男性の胸に寄りそうなんて!)

 誰にも気にされないのが信じられなかった。これは普通のことなのか。

(それにしても人が多いわ。村祭りみたい。いつもこうなのかしら……)

 桐吾の腕の中でドキドキしつつ、人いきれを横目で気にする。
 目の前の猫バッグから白玉もあたりをうかがっているのがわかった。おびえてはいないようだが、青と黄の瞳がランランと光る。

(……白玉?)

 猫は軽く口を動かし、たまに舌なめずりをしていた。妙に嬉しそうだ。澪はそっと声を掛けた。

「どうしたの?」
「ん?」
「ううん、白玉が――あっ」

 ブレーキに耐えられず、澪は体勢を崩す。でも桐吾は予期していたようにガッシリと抱きとめてくれた。だが思わず見上げた顔は無表情。

(――桐吾さん、怒ってないかしら。私があんまり情けないって)

 不安におそわれる。それでも何もかもに不慣れな澪は今、桐吾を頼るしかないのだった。

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