明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
  ✿

 そよ、と抜ける風に香ばしい肉やハーブ、ガーリックの香りが混ざっていた。
 澪と桐吾が座ったのはオーニングの下のテラス席。シンプルなテーブルにはリードを掛けておくフックがある。つながれてウッドデッキに寝そべる白玉だったが、他の席にいるのは犬ばかりだ。

 ランチに桐吾が選んだのはイタリアンだった。家での反応を見るかぎり、澪はわりとなんでも食べられるようだから。

「何にする?」

 桐吾はメニューを広げた。書かれた言葉が澪には半分も理解できない。写真とにらめっこする澪が真剣で、桐吾は小さく微笑んだ。

(いつも一生懸命だな)

 やはり澪を見ているのは心地よい。桐吾自身も意外なぐらい和んでしまい、深々と椅子に背を預けた。この親近感はなんなのか。
 だが澪が困ったようすなのは不安になった。気に入らなかっただろうか。すると澪はおずおずと申し出た。

「あの……あまり食べられないかも」
「好きそうなものはないか」
「ううん、そうじゃなくて」

 澪は水をひと口飲んでため息をついた。なんだかだるい。座ってみたらいきなり足の痛みに気づいたのだった。

「ちょっと疲れちゃったみたい……」

 情けないことを訴えても桐吾は怒らなかった。軽く眉を上げるとメニューに目を落とす。

「食欲がなければ小盛りのパスタとデザートぐらいがいいかもしれない」
「でざーと、て甘いおやつのことでしたっけ」

 澪は学習の成果を披露した。瞳がやや力を取り戻す。甘味は女性にとって正義の味方だ。それなら食べられる気がした。
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