明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 二人ぶんのパスタセットと白玉のためのペットメニューを注文してもらい、澪は椅子に沈み込んだ。

(食べて元気になれるかな。桐吾さんに迷惑かけたくない)

 店は建物の二階だった。テラスの下の道路を行き交う車が柵の向こうに見える。向かいのビルのエントランスに大きな銀杏の樹があって、色づきかけていた。

「立派な銀杏。ずっとここにあったのね」
「……澪より長生きか?」

 景色をながめる澪に、桐吾がそんな軽口を叩く。だって澪が生まれたのは百七十年ほども前だ。

「もう! 私がすごいお婆さんみたいに!」

 笑って文句を言ってみせたが、澪の知り合いなどもう白玉だけ。樹木ならば変わらず生えているかもしれないが、人はとうに死んでしまった。
 ふるさとは今どうなっているだろう。澪はつぶやいた。

「……お寺さんの銀杏も大きかったわ」

 懐かしい場所が目に浮かぶ。古いお堂。くゆる線香。そして会えなくなった人の姿も。

「近所に寺があったんだな」
「……そんなに近くはないけど。あのね、お墓があるんです。私の……許婚だったひとの」




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