明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 音で聞くだけだとわかりにくい。どちらも「とうご」だ。
 だが桐吾と過ごすほどに、澪の記憶にある冬悟のおもかげと今の桐吾は重なってきていた。
 最初ぶっきらぼうだと思った桐吾。本当はやさしい人なのではないだろうか。
 今日もずっと澪に気をつかい守ってくれている。偶然拾った祟り神にこんなによくしてくれるのだから、きっと本質は――。

(冬悟さんと似ている。見た目だけじゃなく)

 この数日で澪は、桐吾の隣にいることを幸せだと感じ始めていた。
 たけどそれは冬悟との時間を取り戻したように思えるからかもしれない。そんなこと桐吾には言えない。言ってはいけない。
 桐吾の視線を受けとめて澪はうつむいた。

「……ごめんなさい。失礼ね」
「いや――その人と似ているから、澪は俺との契約を受けたのか」
「あ。それ、は」
「いいんだ、かまわない」

 澪は申し訳なさそうに慌てたが、桐吾の言い方は強かった。瞳にやや暗い光がともる。

「――ならば俺も、澪に遠慮しなくていいな?」
「え、遠慮?」
「ああ。俺は澪の〈夫〉だ。〈妻〉のことをベタベタに甘やかしてみるのも楽しいかもしれない。俺のことを〈冬悟〉だと思えば――澪だっていいんじゃないか?」

 桐吾はテーブルに頬杖をつき、斜めに澪を見つめる。怒ったような口調なのに「甘やかす」と宣言されて澪は戸惑った。

(――え? どういうこと? なんで桐吾さん不機嫌なの?)

 不愛想が平常運転の桐吾だが、それは周囲全体へ向けられたものだったのだと澪は理解した。だって今の桐吾は明らかにこれまでと違う。その尖った視線は澪だけを見ていた。
 ――鋭く、だが甘く絡みつく桐吾のまなざしに、澪の胸はズキンと痛んだ。


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