明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします

嫉妬と独占欲と化け猫

 ✿ ✿


「――ただいま戻りました」

 誰もいないマンションの部屋に帰って、澪はきちんと挨拶した。これはもう身についた習慣なので仕方ない。
 食事の後、二人はタクシーで戻ってきた。荷物が増えたし澪が疲れ気味だったからだ。いろいろな乗り物を経験するのも現代人のフリをするにあたって必要なことだと桐吾は言う。
 確かに澪の経験値は今日一日で爆上がりだ。
 イタリアンでいただいたトマトのパスタは野菜もたっぷり、さっぱりしてスルスル食べられた。ベリーソースを添えたパンナコッタが美味しすぎて澪自身もとろけそうだった。

(令和の街で異国の食べ物をいただく日が来るなんて……)

 あんまり幸せで、デザートスプーンを手に「ほうぅ……」とため息をついてしまった。すると不機嫌だった桐吾が吹き出す。楽しげなまなざしはびっくりするほど甘くて胸が高鳴った。

(……あれも「甘やかす」のうちなのかしら)

 ドサリ。買い物をおろした桐吾は、白玉の入った猫バッグだけは丁寧に澪に渡してくれる。

「ほら。出してやれ」
「はあい。あ、でもあんよを拭かなくちゃ」

 あんよ。足のことだとわかったが、桐吾は精神的によろめいた。 

< 44 / 177 >

この作品をシェア

pagetop