明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 澪はなすがままだ。現代なら普通のことだと考え慣れようとしているのだろう。本当はよほど親しくなければこんなことしないのは教えない。

「きれいな髪だな。まったく傷んでない」
「髪が……んッ……傷む?」

 知らんぷりで話す途中にも澪は肩をふるわせる。しかしそうあおられると桐吾だって参ってしまう。理性が逃げ出す前にドライヤーを止めた。髪の先をもてあそび、匂いをかいでみる。桐吾と同じシャンプーの香りだ。

「……そうか、ずっと油をつけて結ったまま暮らしていたからだな」
「え、ええ。髪はあまりほどかなかったわ。こうしてサラサラさせてるのもいいな、て思うけど」
「染めたこともないだろうし……ああ、ドライヤーでも傷むんだったか」
「今のやつ? ……じゃあ、あの。もうしないでいいです……」

 涙目の澪はごにょごにょと訴えた。こんなこと、しょっちゅうされたらたまらない。
 だが桐吾はわざと傷ついた顔で後ろから澪をのぞき込んだ。脚に挟まれている澪は逃げられない。

「嫌だったか?」
「え、あの。そうじゃないけど……」

 耳に吐息がかかるほどの近さ。澪は顔をそむけようとする。それを桐吾はそっと押さえた。

「澪――」
「ええい! いいかげんにせい!!」

 突然響いた偉そうな怒声。
 それは少年のものだった。

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