明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「――澪も久世は嫌いだろう?」
「私のことはいいんです」

 逃げた言い方をする桐吾に、澪は唇をとがらせて言い返した。
 だってずるい。「祟ってくれ」なんて言っておいて事情も教えてくれないのは。澪が死んだ時のことはだいたい知られているようなのに。

「私だって桐吾さんのことが知りたいの」

 すねたような口ぶりで桐吾は観念した。そんなふうに言われたら逆らえない。久世との関わりの最初から話すことにした。
 鍋の火を止め、料理は中断する。どうせ米が炊けるまで間があるのでダイニングテーブルに移動し、座った。

「――俺は、久世の養子なんだ」

 澪はきょとんとなって首をかしげた。養子?

「え――じゃあ久世の人じゃないんですか」
「いや、母が久世の娘なんで血は引いてる。久世建設会長の祖父も、常務の伯父も本当に母方の親族なのは間違いない」

 ――両親の事故死。学力を見込まれ引き取られ、就職まで囲い込まれた経緯。桐吾を疎み実子のライバル視する伯父。そんなことを話した。
 だが桐吾がもっとも腹立たしかったのは――。

「……妹がいるんだ」
「桐吾さんに?」
「ああ。あいつだって頭はいいんだが、祖父は妹を『いらない』と言った。女だからだ」

 桐吾の声が氷点下まで冷えた。
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