明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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「桐吾――おまえ、女を妊娠させたそうだな」

 難しい顔の伯父に言われた第一声に桐吾はピクリとも反応しなかった。ひとまず思考を相手に悟らせないのは桐吾の処世術。
 出社したとたん役員室に呼び出され、示された写真は澪との買い物風景だった。確かに子供服店の前なので――そんな誤解も生じるかもしれないが。

(白玉は俺の子じゃない)

 買ったのは化け猫の服だ。だがそんなこと黙っているしかなかった。何も言わない桐吾に正親の鼻息がフンと荒くなる。

「桜山守のお嬢さんとの話が進んどると言ったろう。なんてことしてくれたんだ!」
「伯父さんはいろいろな縁談を持って来るので……今回は本気だったんですか」

 しらを切る。伯父が本気なのはわかっていたが、乗ってやる気など最初からなかっただけだ。
 澪の存在が知れたのならそれでかまわない。もう澪も現代に慣れてきた。人前では気弱な女性という設定にしてあまりしゃべらせず、桐吾が矢面に立てば守れるだろう。

「彼女とは真剣にお付き合いをしていて、同棲しています。先方が若いので入籍は先伸ばしていましたが……」

 言葉を濁す。妊娠中ともなんとも言質は与えなかった。そう思い込むなら勝手にすればいいのだ。

「産むのはかまわん」

 伯父の言葉は意外だった。だが苦虫をつぶしたような表情は変わらない。そして続けた言葉は軽蔑に値した。

「その女は愛人にしておけ。桜山守との縁はきっちり結んでもらわんと困る」
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