明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「――」

 桐吾は怒りを抑えてひと呼吸おいた。

(役員にもコンプラ研修はあっただろうが!)

 今どきこんな意識の男が組織の上に立っているなんて信じられなかった。冷たく言い切った。

「――別れる気はありませんよ」
「だから愛人にキープしておけ。金に困らなければその女も文句あるまい。正妻は桜山守から迎えろ。お嬢さんがおまえを気に入っとるらしいからな、こんなチャンスをつぶすのは許さん」

 前時代的な言い分に腹が立つ。
 もう桐吾は伯父を真っ向から否定することにした。どうせ対立するしかない相手だ。

「伯父さんは考え方が古い。今どき結婚で縁を結ぼうとか、どうなんですかね」
「何を? 私は経営刷新の道を探っとるんだ! 単独経営には限界があると父にずっと訴えとるだろうが!」
「SAKURAホールディングスとの提携を考えるなら、真っ当に経営戦略として会長を説得するべきでしょう。それに桜山守のことも馬鹿にしている。事業提案を正当に評価できない組織だとでも?」

 久世建設の事業に誇りを持つ頑固な祖父と、事業拡大のためならSAKURAの傘下に下るもやむなしとする伯父の確執は傍目にも明らかになってきていた。どちらにつく気もなかったが、強気な桐吾の態度に正親は逆上した。

「育ててやった恩を忘れたか。なんのためにおまえを養子にしたと思ってるんだ!」
「種馬になるためじゃありませんね」

 桐吾はビシリと言い返した。これでも遠慮している。本当はもっとキツいことを思っていた。

(――あんたみたいな奴に久世を任せられないと爺さまが危惧したからじゃないのか)

 そもそも桐吾は伯父の養子じゃない。祖父の(・・・)養子になったのだ。だから伯父とは書類上は兄弟として対等の立場だったりする。伯父に指図されるいわれはなかった。桐吾は一礼もせずにきびすを返した。

「いいか、見合いは来週末に決定したからな! すっぽかしたらおまえなどクビだ!」

 思い切り労働基準法違反なことを叫ぶ伯父を置き去りにし、桐吾は役員室を出た。


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