明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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 その日、帰宅した桐吾はいつにも増して険しい表情だった。迎えた澪が驚いて目をパチパチしてしまうぐらい。

「お帰りなさ……だいじょうぶ?」
「ふみゃっ」

 何を嗅ぎつけたかタタッとやってきた白玉。そわそわしながら桐吾の足もとにまとわりつく。あまりにゲンキンで桐吾は苦笑いした。

「今日の俺は邪気にまみれてるか? さっさと喰ってしまえ」

 そのままドカリと床に座る。白玉は遠慮なしに膝に乗り、伸び上がると頬を舐めた。美味しそうな顔だ。

「――何があったの桐吾さん」
「出番だ、澪」

 肩に乗っかる勢いの白玉を腕で支えながら、桐吾は澪に強いまなざしを向ける。

「見合いの日取りが決まった――澪のことを嗅ぎつけたくせに恥知らずめ」
「私?」
「白玉の服を買いに行ったのが写真に撮られてた。伯父の手の誰かに尾行されたんだろうな。子どもができたのかと詰め寄られたよ」

 澪と桐吾の間に子ども。そう考えただけで澪は赤面してしまう。相手がいるとアピールするために契約夫婦になったのだから、正しく誤解してもらえて喜ばしいのに恥ずかしかった。

「あれ……なのにお見合いはするんですね?」
「――澪のことは妾にしておけと言われた」

 鼻にしわを寄せる桐吾の言葉で、いきなり澪の全身から血の気が引いた。へたり込む。慌てた桐吾が腰を浮かし、白玉が飛び降りた。

「澪?」
「それは――私、ただの祟り神だけど」

 とても悲しくなって澪の目から涙がこぼれた。
 昔味わった気持ちを思い出す。澪など取るに足らぬ者で、夫となる男にどうにでもされて当然だとないがしろにされた記憶。
 それはまだ変わっていないのか。令和の世の中でも同じなのか。

「しかも私、祟れもしない祟り神だし。わかってるの。私なんか桐吾さんにふさわしくない――」
「そんなことはない」

 桐吾はそっと澪の肩を抱きよせる。泣いてしまった澪は抵抗しなかった。
 こうしていると尖っていた桐吾の気持ちも落ち着いていく。桐吾はささやいて言い聞かせた。

「祟り神だろうがなんだろうが澪は澪だ。俺の隣にいろ。それでいい」

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