明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 ✿ ✿


「ただいま――」

 最初は出なかったその言葉がスムーズに言えるようになった。それは桐吾の進歩だと思う。
 お手伝いさんしかいない家に帰り、大学からは一人暮らし。そんな桐吾にとって澪の存在はなんだかくすぐったい。

「桐吾さん、おかえりなさい!」
「おーう、帰ったか」

 澪と一緒にソファでくつろいでいたのは少年姿の白玉だった。現代風に着替えてみている。
 ベージュの長ズボンと白Tシャツ、その上にブラウンの前開きパーカーを羽織った見た目は文句なしに小学生だ。真っ白の髪とピンと立つ耳をのぞけば。

「猫耳を出すな」

 桐吾は白玉のパーカーフードを無造作にかぶせ、隠した。本当に引っ込めていてほしい。だが白玉はクククと笑ってフードを外した。

「澪は我の耳を可愛いと言うのでな」
「……可愛い? ひい爺さんなんだろう?」
「でもこうしてると男の子ですもの」

 ねー、と澪は少年の頭をなでた。そのやさしい視線が桐吾を苛立たせる。
 だが今日は、桐吾だって澪にしてもらったことがあるのだ。偽の夫は化け猫に張り合った。

「……おにぎり、美味しかった。ありがとう」
「ほんと? よかった!」

 澪ははにかむ。料理は無理しなくていいと言われたが、ちょっと情けなかった。なので握り飯だけでもと頑張ったのだ。だって、ちゃんと〈妻〉をやってみたい。
 喜ぶ澪の隣で白玉はゆらりと立ち上がった。桐吾のことをしげしげと眺める。

「ふふーん。今日は女を泣かせて来たな?」
< 62 / 177 >

この作品をシェア

pagetop