明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「は? なんだそれは」
「そんな気がまとわりついておるぞ。罪な男よ」

 ニヤニヤとからかいながら、白玉は桐吾に抱きついた。身長差があるのでお腹に腕を回すぐらいになる。

「うわ、こら」
「毎日の食事であろうが。人間の我にやられると嫌か? 我がまま者め」

 白玉の言うとおりだった。猫の姿では顔を舐められたりしている。だがねっとりした笑顔で見上げてくる少年に迫られるのは嬉しくなかった。

「……その姿ではやめろ」
「はっきり言いおるな」

 憎々しげに言い捨てると白玉は桐吾を解放した。でもすでに舌なめずりしているのは食した後ということか。

「まあよいよい。桐吾の邪気はあっさりしておるし」
「そうなの? 桐吾さん元気なのね」
「……澪がおるからであろうなぁ」

 ふふん、と笑った白玉は不得要領な澪と桐吾を見比べた。生温かい目だ。

「どういうことだ?」
「わからんか。なら教えぬ」

 偉そうな少年に桐吾はしかめつらをしてみせた。祟り猫など相手にしていられない。

「……シャワーを浴びてくる」
「あ、お風呂を沸かしておきました」

 澪におずおずと申し出られて桐吾の表情はあっという間にゆるんだ。

「そ、そうか。ありがとう」
「ううん。後で私もいただけるし……」
「やっぱり湯につかるのは好きだったか? なら毎日沸かしていいんだぞ。いや、俺も掃除はするが」

 シャワーで済ますのと違い、湯上りの澪はほかほかと幸せそうで桐吾は目を奪われたものだ。だが澪だって桐吾のことを同じように感じた。互いの姿を思い出し、テレテレとまなざしを交わす二人。

(――不器用な奴らめ)

 少年姿の化け猫は面倒くさそうに伸びをした。

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