明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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 何故白玉が人の姿をとっているかというと、言葉を話したいからだった。どう見合いを潰すか、打ち合わせなくてはならない。

「――日曜にホテルで会う予定だ」

 風呂上がりの桐吾は食事をしながら説明した。
 桐吾の側は伯父夫婦、向こうは両親同伴で顔合わせの後、庭園の散策をというよくある流れだろう。

「だがその前に話をつけようと思う。正式に会ってしまった後だと、どちらも面子丸つぶれだからな」
「――どうするんですか?」

 澪は不安げだ。今の見合いのシステムがよくわからない。澪の感覚だと当人同士が会うなど祝言の日が初めてでも当然なのだった。

「相手本人に連絡をつける」
「お相手?」
「ああ」

 桐吾は箸をとめ、その名前を口にした。

桜山守向日葵(さくらやまもり ひまわり)
「――は?」

 理解しきれずに澪はきょとんとした。

「さくら……やまもり……ひまわり?」
桜山守向日葵(さくらやまもり ひまわり)。桜山守という家の娘で、向日葵という名だ」

 濃くて長い名だと桐吾も思った。春なのか夏なのかはっきりしろ、とも。だがそれは本人のせいではない。

「ざっと調べたがバリバリに働く女性だった。俺と同い年の二十九歳。SAKURAホールディングス傘下の会社で観光開発関係のプランナーをやっている」
「……そうなんですか」

 まったく理解していない口ぶりで澪は相づちを打った。戸惑うだろうと思いつつわざと言ってみたので桐吾は満足だ。澪の浮世離れっぷりが楽しくてからかっているだけなので。白玉が手をヒラヒラさせて口をはさむ。

「ま、とにかく仕事をしておる、と」
「そういうことだ。どうしてこんな政略結婚に乗ったのかわからないが、これまでの経歴と実績を見る限り話の通じる相手だと思う」

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