明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします

悪役令嬢の望み


 桜山守向日葵(さくらやまもり ひまわり)は悠然と微笑んだ。白玉を見おろしてニイッと口の端を上げる。

「ごめんなさいね。わたくし悪役令嬢ではありませんわ」
「これは身内が失礼を」

 初手でしくじった白玉の前に桐吾は割り込んだ。

「桜山守さんですね? 久世桐吾です」
「お会いできて嬉しいですわ、桜山守向日葵です」

 白玉と澪を背にかばった桐吾は驚く。相対した向日葵は、桐吾と目線がそんなに変わらなかったのだ。
 靴底の二センチほどを足せば桐吾は百八十を超える。向日葵は元が百七十センチぐらいあるのかもしれないが、さらに八センチヒールを履きこなしていた。
 スラリとした肢体。だが胸はボリューミー。くっきりした目鼻立ち。
 押し出しの強い美人がそこにいた。顔写真だけなら見ていたが、これは。

「ふふふ」

 桐吾の目の色を読んだのか、向日葵が上品な笑い声をもらす。

「わたくしこう(・・)でしょう? おわかりかしら、隣に並ぶ人を選びたくなりますの」
「……なるほど」

 見劣りしない体格の夫が欲しい、と。桐吾を気に入った理由の一端を明かされて冷や汗をかいた。
 これは素直にあきらめないという意思表示なのか。だが桐吾も引き下がれなかった。

(澪を守るのは自分だ)

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