明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 背中に隠した〈妻〉の澪は、「愛人に」という言葉で泣き崩れた。そんな扱いに甘んじるわけに――とはいえ元々が方便の契約妻なのだが。
 桐吾の中で今はもう目的と手段が逆転していた。〈見合いを断るための澪〉ではなく〈澪を守るために見合いを断る〉になっている。それでいいと思った。

「――どこでお話しましょうか桜山守さん」
「できれば向日葵、と」
「――桜山守さん」

 頑なに姓を呼んだ桐吾に向日葵は妖艶な微笑みを投げかけた。

「こちらの坊やとお嬢さんもご一緒ですの? でしたら――外に出ましょうか」

  ✿

 ホテルのティールームは使わず、すぐ近い都市公園に出向いた。園内に出店するカフェチェーンで、テラス席の端っこに陣取ったのは澪と白玉と向日葵の三人だ。
 桐吾は全員分の飲み物を買いに行っている。この場合そうするしかないが、今ごろ店内で盛大に気をもんでいるに違いない。

(早く来て、桐吾さん)

 もちろん澪も落ち着かなげだ。その横で白玉は愛想を振りまいていた。

「はじめまして! 僕、森沢士郎(しろう)です。サングラスでごめんなさい、目が弱いので」

 白玉はしゃあしゃあと白、もとい士郎と名乗った。しかも森沢姓。姉弟です、とニッコリ澪にすり寄る笑顔があざとい。見合いを邪魔する姉弟を向日葵は余裕の笑みで迎えた。

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