明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 もちろん白玉だってそこがなんなのか知っていた――澪が訪ねてみたいと思っている寺、そして墓があるはずの土地だ。

(開発? リゾート? のどかだった村はどうなってしまうの。私は駒木野で生きるはずだった)

 懐かしい景色を思い出し胸が締めつけられた。だが桐吾にはわけがわからない。手を澪に重ねた。

「どうした」
「……ううん。そこに昔、知っている人がいて」

 弱々しく笑って澪はごまかした。ごまかしたつもりだった。でもどう見てもようすが普通じゃない。
 隣村なのだから知人ぐらいいてもおかしくないが――桐吾は胸騒ぎがした。

(澪の最初の許婚は、よその村の名主の息子だったと伝承に)

 それは駒木野村だったのだろうか。
 だとすればその男の姓は――もしかして水無月(・・・)

(嘘だろう? 確かに澪からは冬悟という名しか聞いていなかったが)

「澪さんもあのあたりにいらしたの? ではお二人は同郷ということなのかしら。何しろ桐吾さんは、駒木野の旧家・水無月家の出身ですものね」
「――――?」

 ぼんやりと澪は桐吾に目を向けた。
 やや青ざめて見つめ返してくるその人は、久世桐吾と名乗っている。
 だが、久世に引き取られる前の名は――水無月桐吾というのだった。

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