明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
水無月という家
「え――桐吾さん。水無月家って」
「澪」
ぼう然とする澪の耳に桐吾は口を寄せた。前からそっと腕を回し澪の頭を抱く。動揺する澪をなだめるフリで向日葵から二人の表情を隠したのだ。息だけで尋ねる。
「おまえの許婚だったのは、駒木野の水無月の男なのか」
こくん。
澪はうなずいた。一瞬黙った桐吾だが、続ける。
「じゃあそれは――何代か前の、俺の親族だ」
ささやかれた言葉に澪は目をみはった。
(冬悟さん――と桐吾さんは、血がつながってる?)
澪はそっと桐吾の腕を外させた。じっと顔を見つめる。久世へ養子に入ったとは聞いていたけど、それは水無月家からだったのか。だから冬悟と似ていると。
「あら、どうなさいましたの澪さん。まさか桐吾さんの出自をご存じなかった?」
向日葵があおるような視線をくれた。
どうやら横からの情報開示は澪への揺さぶりのようだ。久世の御曹司でなくても心は変わらないのか、という。
そんなこと澪にはまったく関係ない。だが確かに玉の輿狙いの女なら戸惑う情報だろう。
(この女、まだ桐吾をあきらめておらぬか……)
白玉はおもしろくなって朗らかに笑った。
「あれれー? ひまわりお姉さんは、家柄が大事な人? そういうのアニメで観たよ僕。やっぱり悪役令嬢じゃないですかー、やだなあ」
「まあ士郎くん。わたくしじゃなくて、澪さんのことよ。誤解しないでほしいわ」
「私――」
澪は静かに向き直った。向日葵へ静かに言い返す。
「とうごさんは、とうごさんだと思っています」