明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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 帰宅する車内で桐吾は無口だった。その反応に、助手席の澪はすっかり怯えている。

(どうしよう。桐吾さん怒った? 私が偉そうにしたから)

 向日葵が提示した、SAKURAホールディングスと久世建設の合弁事業の可能性。内容はわからないが、峰ヶ根と駒木野を開発するなら黙っていられなかった。

(森が荒れると川があふれ、村人は飢えた。久世はそんなことも忘れてしまったの?)

 そう思って食ってかかったのだが――考えてみれば今の村々がどうなっているのか澪は知らない。桐吾と暮らしている街のように様変わりしマンションだらけかもしれなくて、山や川もとうになくなっている可能性すら――。

(やだ私ったら。馬鹿なことを言ったかしら)

 でもあの時、向日葵は澪のことを真剣な目で見つめ返してくれたのだった。

『それは歴史的に繰り返されてきたことですの? 最近の治水技術ならば、とも思いますけれど。でも環境評価を厳しくするのには賛成ですわ。ご教授ありがとう澪さん』
『い、いえ……』

 そして向日葵は、「後々仕事のご連絡をいたしますわ」と丁重に述べ去っていった。桐吾の隣にいてお見合いを阻止するという澪の任務はいちおう果たせたと考えていいのだろうか。

「あの……桐吾さん」

 おそるおそる呼んでみたら、桐吾はチラリと横目をくれた。でも無言。

「……ごめんなさい。お仕事に口を出して。私にはわからないことなのに」
「いや」

 桐吾はそっけなかった。
 別にそんなことは怒っていない。むしろ峰ヶ根の土地をよく知っていると感心したくらいだ。さすが地元の名主の娘。おっとりのほほんとした澪の意外な一面は、能力主義な向日葵へのカウンターになったはずだった。
 だが駒木野については――つまり冬悟に嫁ぐために学んだ結果だろう。それが引っかかる。

(俺は――先祖に妬いているんだ)

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