明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 認めざるを得ない。
 澪が冬悟のために費やした努力、冬悟と過ごした時間、冬悟へ向けたであろう笑顔。そんなものに腹が立った。
 だって澪は今、桐吾の〈妻〉だ。

(そんなに澪のことを俺は)

 桐吾は過去、何にも執着したことがなかった。強いて言えば家族――本当の両親と妹ぐらい。他には人間も物も、いつでも捨てていいぐらいに思っている。
 なのにどうしたことだ。
 澪だけは狂おしいほど手離したくない。

(――いや、離さなくていいんだ。これからは澪のすべてを俺のものにしてしまえ)

 独占欲が胸に湧いた。それをひた隠しにし、桐吾は淡々と口を開く。

「澪からの助言はありがたかった。土地の記憶はないがしろにしない方がいいからな。現代でもきっと役に立つ」
「そ、そう? 私、よけいなことを言っちゃったかと」
「大丈夫だ。あの後すぐ、向こうも引き下がっただろう? 澪のおかげでうまくいったんだ」

 ほめられて澪の顔色がパアッと明るくなる。だが澪は、そこで特大の不安にかられた。

「向日葵さんとのお見合い……なくなったんですよね?」
「ああ。どちらの家にもあの場で連絡を入れたからな。伯父は激怒するだろうが」
「じゃあ……私はもう、桐吾さんの〈妻〉じゃなくなるんでしょうか」

 震える声で尋ねた澪のことを、桐吾は冷たいまなざしで貫いた。

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