明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
会えてよかった。
その言葉を疑う気など桐吾にはない。澪は嘘をつかないし、ほんのり酔った今はさらに素直に心をさらけ出していることだろう。
だから桐吾も、きちんと言わなくてはならないと思った。桐吾にしては率直な気持ちを口にする。
「――俺もだ」
「うん?」
「俺も澪に会えてよかった」
「わあ、ほんと? 嬉しい」
澪はなんのてらいもなく喜ぶ。子どものように無邪気な顔に桐吾は不安になった。
(……これは、何も伝わっていないんじゃないか?)
もう白玉は寝ている。二人っきりで食事をし、酒を飲んでいる状況で「許婚のことは過去。あなたに会えてよかった(意訳)」と言われたら期待してもいいかと思ったが……。
(わかった。澪は、ニブいんだ)
それも超絶に。
いや、それは澪の責任ではないのかもしれない。育った時代と家を考えれば、親の言うままに嫁ぎ子を産む人生が当たり前。愛だ恋だとは無縁なのが普通だ。むしろ冬悟と淡く想いを通じさせていたのが奇跡だろう。
(というと……本当に、冬悟のことはもう思い切っている?)
そうとも考えられる。桐吾はその思いつきに心を強くした。
(ぐいぐい押して、澪を落とそう。好感は持たれているのだからな)