婚約破棄されたけれど、10年越しの初恋を諦めきれません
落ち着いた声、整ったスーツ、切れ長の目元。

“大学生のバイト家庭教師”とは明らかに違う空気。

ちょっと、気に入った。

「久遠さんは、父の知り合いなの?」

私が尋ねると、彼は少し笑ってうなずいた。

「そうだね。取引先で働いてるよ。」

つまり、ちゃんとした社会人。

しかも父が頭を下げてまでお願いしたらしい。

「いやあ、澪がわがままでね。」

父は苦笑しながら言った。

「学生の先生はことごとくダメでさ。社会人の家庭教師が見つかって本当に助かったよ。」

「わがままとか言わないでよ」と私がむくれると、父は茶化すように言った。

「でも、お前も気に入ってるみたいじゃないか。なあ、どこが気に入ったんだ?」

私は腕を組んで、わざと大げさに答えた。

「御曹司ってところ。」

その瞬間、司さんが吹き出す。

「そこなんだ?」

「そうよ。苦労知らずで、優雅で、勝ち組って感じ。」
< 2 / 14 >

この作品をシェア

pagetop