婚約破棄されたけれど、10年越しの初恋を諦めきれません
「ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」

私は一歩前に出て、静かに答えた。

「久遠司さんに、お会いしたいのですが。」

淡いブルーのワンピースを着て、少しだけメイクをしてきた。

けれど受付の女性は、怪訝そうな顔を崩さない。

「恐れ入りますが……アポイントは取られていますか?」

私は微笑んで、胸を張った。

「“望月の令嬢が来た”と、お伝えください。」

受付の女性が内線で「望月の令嬢が来ています」と伝えてから、およそ10分後。

革靴の音が響き、スーツ姿の男性がエントランスへと姿を現した。

「……あれ? 澪さん?」

その声。
その目元。
そして、その柔らかな笑み。

——変わってない。
でも、やっぱり素敵になってる。

懐かしそうに私の顔を見つめながら、久遠司さんが近づいてきた。

「大人になったね。」
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