婚約破棄されたけれど、10年越しの初恋を諦めきれません
「はい。二十歳になりました。」

私は一歩前に出て、まっすぐ彼の目を見つめた。

メイクも服も完璧。今日はこの日のために、全てを整えてきたのだから。

「今日は、久遠さんにある申し出があって来ました。」

「……申し出?」

司さんは不思議そうに首を傾げたが、その表情はどこか楽しげだった。

「何だろう。気になるな。」

私は一呼吸おいて、質問を投げかけた。

「その前に、私のことをどう思っていますか?」

司さんは一瞬だけ目を見開き、それからふっと微笑んだ。

「……綺麗になったね。まあ、あの当時から“綺麗な子だな”とは思ってたけれど。」

その言葉に、心の中でガッツポーズをした。

——いける。

私はそのまま、一歩近づき、深々と頭を下げた。

「私と、婚約していただけますか?」

その瞬間、エントランスの空気が、静かに張り詰めた。
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