婚約破棄されたけれど、10年越しの初恋を諦めきれません
一瞬の沈黙のあと、司さんは目を細めて微笑んだ。

「……婚約? それはまた、突然だね。」

動揺している様子はない。

むしろ、少し面白がっているようにさえ見える。

私は一歩も退かず、笑みを浮かべて答えた。

「望月グループと久遠商事は、大切な取引先関係にあります。お互いの家にとっても、将来的に大きな利益になると思います。」

提案の形を取りつつも、真っ直ぐな“私の本気”を込めたつもりだった。

司さんは顎に手をやりながら、穏やかな笑顔で返した。

「でも、俺の一存では決められないからね。……父に相談するよ。」

「はい。ぜひお願いします。」

私は丁寧に頭を下げた。

表面上は冷静を装っていたけれど、心の中はぐらぐらに揺れていた。

——もしかしたら。

その言葉は、司さんの優しい断り文句だったのかもしれない。

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