拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
「ブレイン伯爵って、つい先日浮気がばれて奥様が宿泊施設に乱入してきたから裏口から裸で逃げ出したって噂になっていた方よね? 懲りないのね」

 フィーヌは届いたばかりの手紙をぽいっとごみ箱に捨てた。

「……ロサイダー卿にはご迷惑がかかっていないといいのだけど」
 
 フィーヌはぽつりと独り言ちる。
 フィーヌがこの状況なら、ホークにも少なからず悪評が立っているはずだ。

(本当に、お気の毒に──)
 
 ホーク・ロサイダーはここヴィットーレの北の国境を守る辺境伯だ。これまで幾度なく繰り返された外国からの侵略を一騎当千活躍で撃退し続ける英雄である一方、敵を容赦なく斬り捨て全身が返り血に染まる様はまるで死神のようだと恐れられている存在だった。

 そのため、ホークは辺境伯という高位貴族でありながら、多くの貴族令嬢から恐れられている存在だった。
 ましてや、領地は隣国からの攻撃に晒される上に魔物までいる危険な地だ。

(命を掛けて国を守っているのに〝死神〟扱いだなんて、辺境伯って損な役回りだわ)

 フィーヌはふうっと息を吐くと、自室からテラスに出る。そして、階段を降りると侯爵邸の庭へと向かった。

「ヴァル。いるんでしょう?」
 
 何もない空間に声をかけると、フィーヌから一メートルほど離れた場所につむじ風が吹き、忽然と小人が現れた。
 五歳時の身長ほどしかない彼は、土の精霊〝ノーム〟と呼ばれる存在だ。
 フィーヌが土の声を聴くという神恵を得たときに忽然と現れたのだが、フィーヌ以外には姿が見えないし、声も聞こえないようだ。「ヴァル」という名前は彼自身が教えてくれた。
 
「呼んだか?」
「ダイナー公爵領のリリト金山は、あとどれくらい金鉱石が残ってるかしら?」
「もうすぐなくなる。今のペースで掘ってたら、あと二年……もって三年だな」
「もって三年……。思ったよりもすぐね」
「他を探してやろうか?」
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